大判例

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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和59年(う)91号 判決

1 まず,所論は,「原判示第1の共犯者とされている岩本比呂志に対する児童福祉法違反被疑事件(以下「別件」という。)にかかる逮捕状による逮捕及び勾留は,同人に対する原判示第1の銃砲刀剣類所持等取締違反,火薬類取締法違反(以下「本件」という。)について,同人を取調べるために利用する意図のもとに軽微な別件を利用してなされた違法な別件逮捕,勾留であり,このような違法な別件逮捕,勾留により得られた同人の検察官に対する原判決挙示の各供述調書は,いずれも違法収集証拠として証拠能力がない。」旨主張する。

そこで検討するに,(1)岩本比呂志は,別件にかかる昭和58年6月7日付逮捕状(ただし,同年5月31日付で発布された逮捕状を実質上更新したもの。)により,同年6月9日逮捕され,同月11日勾留されたが,右逮捕状記載の被疑事実をみると,その罪質,犯行期間,犯行態様及び児童への影響等の面並びにその法定刑の重さなどからして,必ずしも軽微な事案とはいい難いものであるところ,既に事件後1年前後の月日が経過しているうえ,関係者も相当数にのぼることが予想され,その裏付捜査にはかなりの日時を要すると見込まれるばかりでなく,証拠いん滅の虞も決して少なくないように窺える案件であると考えられ,また,右岩本は,筒井組組員として,暴力団の対立抗争にかかわりを持ったが,その後,暴力団の生活から離脱するため,筒井組のもとから逃げ出して,逮捕当時は実姉方に身をかくしていたものの,状況のいかんによっては更に逃走する虞なしとしなかったことなどの事情に照らすと,右別件の逮捕,勾留は,それぞれ相当の理由及び必要性があったというべきで,その適法性は優に肯認されるところである。(2)ところで,右岩本は,前示のように6月9日逮捕され,同月11日勾留,同月20日勾留期間延長決定となったが,それまでの間は,専ら別件についての取調べを受け,司法警察員(6通)及び検察官(1通)に対する各自白(身上関係を含む。)調書が作成され,また同期間中に相当数の別件参考人の取調べがなされ,その供述調書が作成されているが,右勾留期間延長決定後は,同人がかねてより本件を契機に堅気になりたいとの心情をもらしていたことから,過去を清算すべく,本件について任意に供述するに至ったため,同人了承のもとに,専ら本件についての取調べがなされ,本件の自白を録取した司法警察員(6月22日付,23日付)及び検察官(同月27日付,29日付,30日付)に対する各供述調書が作成され,別件勾留期間満了日の同月30日本件につき起訴(本件につき,いわゆる「求令状」起訴)され,同日本件について勾留(同日別件勾留は釈放)されたことが認められ,これらの事実によれば,右岩本に対する右別件による逮捕,勾留中における別件及び本件についての取調べには何ら違法と目すべきものはなく,しかもそれによって得られた各自白調書の任意性を疑わせるような事由は全く見当たらない。(3)してみれば,所論指摘の,岩本の検察官に対する各供述調書はすべて適法に作成され,証拠能力を有するものというべきである。所論は採りえない。

2 また,所論は,「被告人に対する児童福祉法違反被疑事件(以下「別件」という。)にかかる逮捕状による逮捕及び勾留は,同人に対する原判示第1,第2の1,2の銃砲刀剣類所持等取締法違反,火薬類取締法違反,建造物損壊被疑事件(以下「本件」という。)について,同人を取調べるために利用する意図のもとに軽微な別件を利用してなされた違法な別件逮捕,勾留であり,次いで,本件に関する昭和58年6月23日付逮捕状による逮捕及び勾留は,前記岩本の違法な別件逮捕,勾留中に得られた本件についての証拠能力のない自白調書及び後記筒井清春の違法な逮捕,勾留中に得られた本件についての証拠能力のない自白調書を一部資料として発布された逮捕状に基づいてなされた違法な逮捕及び勾留であり,結局,被告人の右逮捕,勾留は違法であるから,このような違法な逮捕,勾留中に得られた被告人の検察官に対する原判示挙示の各供述調書は,違法収集証拠として,いずれも証拠能力を否定されるべきである。」旨主張する。

そこで検討するに,(1)被告人は,別件にかかる昭和58年5月31日付逮捕状により同年6月1日逮捕され,同月4日勾留されたが,右別件被疑事実が必ずしも軽微な事案とはいい難く,事実無関係もかなり複雑なうえ証拠いん滅の虞も少なくないとみられる案件であることは,岩本の場合と全く同様であるところ,加えて,被告人は,昭和58年5月中に発生した暴力団の対立抗争に深くかかわって,逃走の虞なしとしない状況にあったことなどの諸事情に照らすと,右逮捕,勾留は,それぞれ相当の理由及び必要性があったというべきで,その適法性は優に肯認されるところである。(2)ところで,被告人は,前示のように,別件により6月1日逮捕され,同月4日勾留(同日付接見禁止決定,同月13日勾留期間延長決定)され,同月23日検察官釈放となったが,同日本件(ただし,被疑罪名は,銃砲刀剣類所持等取締法違反,火薬類取締法違反,器物毀棄)で再逮捕され,同月26日本件で勾留(同日付接見禁止決定)となり,同年7月5日本件(ただし,原判示第1及び第2の1についてのみ。)で起訴されたものであるが,捜査の経過にかんがみると,当時警察としては,被告人及びその輩下組員が原判示第2の1の松本会事務所へのけん銃弾撃ち込みに関与しているとの強い疑いを持っていて,右別件の逮捕,勾留中に,右別件と併行して,右の件の取調べをする意図を有していたことが十分に窺われるところ,現実には,被告人が右別件の逮捕当初から,逮捕容疑が別件であることと自己の輩下組員を(警察に)売るようなことはできないと言い張って,本件についての取調べに容易に応じようとしなかったこともあって,本件についての本格的な取調べをなされた様子はなく,また,本件についての自白調書が作成された形跡も見当たらないこと,他面,右別件の逮捕,勾留期間中に別件についての多数の参考人の取調べとその供述調書が作成されていることなどの事情にかんがみると,右別件の逮捕,勾留は一応当該被疑事実の捜査取調べを目的とされたもので,専ら本件についての被告人の自白を得ることを目的としたものとは認められないので,右逮捕,勾留そのものは適法であるということができる。(3)次に,被告人は,前示のように本件についての逮捕状により6月23日再逮捕されたものであるところ,右逮捕状の発布にあたり,右岩本及び筒井清春の本件に関する各自白調書が審査資料の一部として用いられたことは所論指摘のとおりであると窺われるが,右岩本の自白調書が適法に作成され,証拠能力を有するものであることは前記のとおりであり,右筒井清春の自白調書が適法に作成され,証拠能力を有するものであることもまた後記のとおりであるから,これらの供述調書を一部資料として発布された本件逮捕状に基づく逮捕(さらに,それに引き続く勾留)が違法であるとはいえない。(4)従って,被告人の別件及び本件の各逮捕,勾留中になされた取調べによって得られた所論指摘の被告人の検察官に対する各供述調書が所論主張のように証拠能力を否定されるいわれはない。所論は採りえない。

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